杉の語源は明らかではありませんがアイヌ語のシンクニー(真っすぐな木の意味)から転じたものといわれています。
和名では「スギ」と呼ばれ「マキ、イヌスギ、ホンスギ、ベニアカ、ヤマトスギ、ヤブトウシ、エゾスギ」などの品種を含む名称が四十種もあります。
漢名では「杉」といい「椙、経木、刺斗、紗木、柵木...」などといわれることもあります。
杉はほんとに真っすぐな木ですね!
北は北海道から南は九州の屋久島まで広く分布しています。このほか沖縄にも杉の植栽林が見られます。
杉の中でも「秋田杉」のように天然生杉となると、青森県西津軽郡矢倉山の矢倉国有林が北限です。
このような広範囲にわたる中で”杉のエリート”といわれる「あきた杉」となるとぐっと狭められます。最も大きな集団は秋田県米代川流域に属する県北一帯です。
天然秋田杉の分布図

温暖肥よくで適度の湿気がある土地を好み、風当たりの強い場所や、やせ地、厳寒地、乾燥地などを嫌う性質を持っています。平均気温十二度、年間降水量千八百ミリという秋田県の気候風土が、最も育ちやすい環境といえます。

杉の敵は大きく四種類に分類できます。

1.鳥獣(野ネズミ、野ウサギ、リス、ヤマドリ など)
 なかでも野ネズミは最も悪質な天敵です。杉を食荒らすのは「ハタ
 ネズミ」で、堅い外皮を鋭い歯で噛み破り、木質部と外皮の中間に
 ある樹液をたっぷり含んだ靭皮を食べ、杉を丸裸にしてしまいま
 す。
野ネズミにかじられた杉

2.害虫(マイマイガ、スギタマバエ、ヒバノキクイムシ、キマダラコウモリ など)
 これらの害虫は杉を枯死させる場合が多いです。
 マイマイガは雑食性で貪欲。
 スギタマバエは木に穴をあけ成長を止め、用材価値を著しく低下させます。
 ヒバノキクイムシは健康な木には被害を与えませんが、融雪期の季節風や霜雪で樹勢の衰えた木をねらい
 穴をあけます。

3.病菌(スギ枝枯菌核病、スギ赤枯病、胴枯病 など)
 スギ枝枯菌核病は高温多湿で通風不良が原因となるため、除伐や間伐など管理をよくすれば防げます。
 恐ろしいのは赤枯病です。スギカミキリ虫が媒介するサーコスポラ菌で、ひどくなると幹を全く腐らせ
 てしまいます。
 胴枯病は局所的な凍霜病が誘因となります。


4.気象(風:特に塩分を含んだ潮風や寒風、豪雪 など)
 潮風などは防砂林で防ぎます。雪の多い秋田県では杉苗や新植地の雪腐病があります。
 雪に押しつぶされて腐ってしまうことがあります。



一般に天然生杉は抵抗力が強く、病害虫や気象病にやられることは少ないですが、人工造林は管理の手を抜くとやられる可能性が大きいといわれています。


数多くの杉の中で、なぜ秋田杉が日本三大美林としてもてはやされているのでしょうか?
それは、節がなく通直で、目が細かく、年輪は均一で、特有の淡紅色をおび、優美な色と香りということは
あまりにも有名です。
しかしそれ以外にも秋田杉には他の杉にはない数々の特徴があるからです。


1.耐陰性が非常に強い
 秋田杉が繁茂する県内の杉林は直射日光の入らない林が多いため、このジメジメした林内のいたるところ
 に幼稚樹が見られます。植物の育成には天然のエネルギーである太陽の光が必要なことは当然ですが、
 日光の入らない原始林で成長してきた秋田杉はそれだけに強度の耐陰性を持っているといえます。


2.伏条性
 杉をはじめとする針葉樹の繁殖には「伏条」と「立条実生(みお
 い)」とがあります。伏条繁殖とは親木から出た下枝が地面を伏す
 ように這い、そのうち落土などで土をかぶり、その枝から根が出て親
 木から2〜3m先で垂直に立ち上がり成長することを言います。
 立条実生とは、種子から発育することです。
 伏条、立条実生の繁殖は気候的に大きく影響を受けます。雪の多い
 秋田県に育つ秋田杉は積雪のため伏条による繁殖率が非常に高いの
 です。
「伏条」、「立条実生(みおい)」かは不明だが天然に芽がでた秋田杉の苗


3.成長の持続性
 ほかの地方の杉に比べ幼い時代の成長は遅いですが、老木になっても同じ程度の成長を続けます。
 秋田杉ならではの木目がそろった木材が生産されるのは成長に持続性があるためです。
 そして同じ秋田杉の中でも県北の米代川流域の秋田杉は最も質の高いものとして評価されています。



4.杉の質
 杉の質は材色、木目、かおりが優劣を決めます。
 秋田杉の材色(木の中心の色、心材ともいう)は明るく澄んだ肉色が最上と言われています。
 木目は細かく幅が大体そろっているものがいいとされいますが、部分的に木目の幅が広がったり狭かった
 りするのが普通で、極端に細かい木目はよいとはいえません。
 全体的に木目の幅が広いうえ、そろっていないものは劣等材といわれ、節が多いほど劣等度も増します。
 かおりの点では鼻を突く清純爽快な感じをうけるのがいいとされています。


毎日新聞社 秋田支局編 「秋田杉物語」より
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